アナログテレビを捨てることにしました。理由はあなたにはもう電波を届けません、ということなので、ああそうですか、それはどうもどうもご苦労様でした…。すこしイヤな感じの人になっていますが、もう無くてもいいか?ということでリビングの中央に鎮座していた強大なブラウン管という前世紀の部品を使った機械は、今世紀にはまったく役に立たない物体に化してしまったわけです。
思えばテレビと一緒に育ったようなモノです、幼少期はサイボーグ009やサンダーバードなど友達と一緒にワクワクかじり付くように画面を見入ったり、ビートルズを見るためにアネキとチャンネル争いをし、はかなく敗北を期したり、8時だよ全員集合でアホなギャグを毎週楽しみに見たり、ジーパンの死に心を打たれたり、ダイアモンドサッカーを見て翌日グランドでゴールシーンを再現してみたり、数え切れない数々の思い出とともにそれは在りました。「テレビばっかり見てないで勉強しなさい!」この言葉を何度聞いたことか、しかし、くだらなさの中に何か心をつなぐものも同時に放送されていたことも疑いのないことです。
しかし、なにかが変わってしまいました、未開の情報もインターネット検索でそこそこ覗き見ることができます、リアルな人間ドラマもブログを読めば共感することができます、フェイスブックを見れば友達たちが今晩何を食べたかも知ることができます、会話をしなくても何かとかかわって生きてゆくことができるようになりました。
ところで、テレビとサヨナラするためには、どうすればよいか皆さんご存じでしょうか?「ベイブリッジから不法投棄したらどうですか?」と若者に勧められましたがそんなことをしたらブログに書くことができなくなってしまいます。「業者に電話すればいいんじゃないですか?」常識的な回答ありがとうございます。「新しいテレビを買えばいいんですよ、古いモノは引き取ってもらえますよ。」素晴らしき助言ありがとうございます、でも欲しくないんです…。インターネットは教えてくれました。「まず郵便局に行ってください。」「はい、わかったでござる。」
「テレビを捨てたいのだが、コチラでよいでござるか?」郵便局の窓口にたずねました。 「ハイ、そちらに書類があるのでそちらに必要事項を記入の上、お金とともに提出してください。」
「了解したでござる」サラサラと記入してみました。
「このメーカコードというものは、なんでござるか?」
「それは電気会社の社名を分類するためのものです、インターネットにでているのでそちらから見れますよ。」
「そうでござるか…。メーカーはうろ覚えなので、出直すでござる。」
テレビのど真ん中にメーカーのロゴマークは入っていました、いくら空気のような存在とはいえ知らなくてすいませんでした。さて必要事項をしっかりと記入して再度郵便局へ。
「本日はテレビを捨てたいが故、金銭と書類を持参したでございる!」
「ハイわかりました、しばらく座っておまちください。」しばらくして、
「片平さん、お待たせしました、リサイクル券についてはご存じですか?」
「いえ、今回は初めて故、無知でござる。」 「そうですか、では説明します、まずこの領収書をコチラに貼ってください。」
「ここで貼ってよいでござるか?」
「どうぞ…。」
「それで、どうしたら、よいでござるか?」 ごそごそと棚から出してきた冊子を片手に
「テレビの場合、右上のこの部分にこの券を貼って処理場にお持ちください。」
「そうでござるか、細かいでござるね…。でも世話になった。アリガト!」 無事リサイクル券をゲットし処理場に持ち込むことにしました。
朝から重たいテレビを車に積み込み処理場に向かいました、8時40分ぐらにには着いてしまい、9時のオープンまで待たなくてはいけないかなと思いましたが。腕まくりをしたゴツイおっさんが掃除をしていました、ゴチャゴチャの処理場をイメージしていたのですが、ゴミらしきものはなく、清々しい空気が流れているようにさえ感じました、いろいろな想いで使い古されたモノたちが生まれ変わる門番であり、ある意味とても神聖な場所なのかもしれません。向こうもコチラに気づいたようで、なんか牧師さんか神主さんのような気配を漂わして、ほうきを片手にコチラにどすどすと近づいてきました。
「テレビを引き取ってもらいたくて、来たでござる。」
「リサイクル券はお持ちですか?」ゆっくり、低く、静かな声で…。
「ハイ…。」神妙に答えました。
「では…。コチラで運びますから、車を動かしてください。」 指をさしました。時間外なのに嫌な顔など少しも見せず、かといって笑顔でもなく…。他の男たちを呼び寄せ運ばせました。
「印を押してくるので、しばらく車でお待ちください。」
「ハイ…。」と答えたものの、どこに運んでゆくのか男たちの行方を目で追いました。大きなカゴに決められたように並べていきました、なるほど券を貼る位置を明確に定めていたのはこういう理由だったのかとガテンがいきました。
「お待たせしました、コチラが控えになります。」丁寧に認印をコチラにわかるように指をさして渡してくれました。事務的という言葉で片付けられない、何かの儀式のような感じをちらつかせてクルっと後ろを向いて先ほどの掃除にもどっていったようでした。捨てるのではなく生まれ変わるとはこういうことか、ゴミではなく資源なのです、その資源を丁寧に扱い、それを仕事に毎日を暮らしている人々がいるのです、お金を払って捨てるなんて…、と思っていた自分を反省して「モノは捨てるのではなく手放すのだ」という気持ちを大切にしなければいけないのだと心に誓いました。
「テレビばっかり見てないで、少しは勉強しましたよ…。」では。